OTEMACHI REVIVAL arch-hiroshima 広島の建築
目次 [ はじめに1.現状分析2.解決への提言3.シミュレーション用語の解説マンション問題について ] arch-hiroshima トップページ
1.現状分析
(分析対象エリアは原爆ドームの裏側からサンモールにかけて、大手町1〜2丁目・紙屋町2丁目とし、以下「当エリア」と表記します。)
提案の前段階として、景観問題はひとまず脇に置いておいて、現状を分析し本質的な問題を明らかにしようと思います。
街の問題点を探る第一歩は、とにかく現地を見て歩くことです。私も一応地元民のつもりだったのですが、改めて歩き回ってみて色々と新しい発見がありました。その中で最も重要な発見は、「原爆ドームの裏側一帯が”繁華街のお勝手口”になっている」 ことです。



1-1. 現地調査から見えたこと 〜繁華街のお勝手口とは?〜

現在の広島の中心市街地は紙屋町・本通り・八丁堀エリアで、川に近づくほど賑わいが無くなっていく傾向があります。紙屋町・大手町で言うと、広電が走っている相生通り・鯉城通りが「表玄関」で、元安川沿いは「お勝手口」のように扱われていると私は感じました。

絵と写真を使ってもう少し詳しく説明します。下のイラストは現地の現時点での利用状況を描いたものです。厳密な絵ではありませんので、イメージをつかむ程度にお考えください。
#1:現状分析の概要


1-1-1. 西側(原爆ドーム側)に駐車場やマンションが集中 → 賑わいがない
西側のエリアには、駐車場が多く立地しています。これらは条例で大型店に設置が義務づけられている駐車場と思われますが、街並みとして好ましくないだけでなく、駐車場渋滞のために歩行者が寄りつかないという、商業地にとって重大な問題を生じさせています。(写真#3)
さて、現況用途(図#2)を見ると、駐車場だけでなくマンションも西側エリアに集中しています。歩きにくいが故に商業地としての価値が低く、商業ビルでは採算が取れないからマンションにするというケースもあると思われます。マンションは人口を増やしてくれる反面、どうしても高層建物になる(詳細は1-3を参照)のと、商業の賑わいを分断してしまう問題があります(写真#4)。

#2:現況用途 #3:駐車場が集中している #4:マンション街に賑わいはない

1-1-2. 元安橋橋詰がまちの「玄関」になっていない
元安橋の橋詰(写真#5)は、本通り方面から見た場合は「繁華街の端っこ」であり、「お勝手口」の扱いになるのですが、観光客の視点では、ここは平和公園から繁華街に向かうときの「玄関」です。今は寂しいこの場所を上手に飾って都心に人を呼び込めれば、本通りなど既存の繁華街にとっても好ましい結果になるはずです。

#5:元安橋橋詰。これでは寂しすぎる。 #6:橋詰から少し行くとこんな感じ #7:視線の先には常にマンションが

1-1-3. まちの外周部に高い建物がある一方で、内部は低い建物しか建たない
電車通り沿いや川沿いは高層の建物がありますが、裏通りに入ると低い建物が並んでいます。これは、「容積率が道路幅員に比例して決められる」のと「斜線制限に引っかかる」ためと考えられます。
容積率について詳しくはこちら

実際の指定容積率はどのくらいなのかというと、机上計算で推定したところでは相生通り・鯉城通り沿いが800%、元安川沿いが500〜600%である一方、道路の狭いエリアでは300〜400%という箇所もあるようです。(図#8
これほど容積率の落差があると、街の見た目、すなわち街並みもデコボコになってしまいます(写真#9)。都心の一等地としてのポテンシャル(潜在能力)を考えると、居住環境を考慮しつつもう少し高度利用していっても良いのではないかと思います。
#8:現況推定容積率 #9:デコボコした街並みの例

1-1-4. まとめ

原爆ドームの裏側一帯というのは、本通りなどから見ると、「お勝手口」であって「玄関」ではありません。そのため繁華街の外側にできるべき駐車場やマンションがこんなところに立地しているわけです。しかし観光客から見ると、当エリアは平和公園から繁華街に向かう時の「玄関」に相当する場所のはずで、ここに重大な食い違いが発生します。
とはいえ、地元と観光客の利益は対立するものではなく、これだけの良好な立地を駐車場やマンションにしておくのは、広島という街全体にとっても損なことだという気がします。




1-2. 現況の都市計画を読む

日本の市街地では全て何らかの都市計画が定められています。全ての建物は都市計画に沿って建てられますから、都市計画の内容はその街の方向性を決定づける大きな要素になります。まちづくりを考える際には現地をよく見ることが最も重要ですが、当エリアの都市計画についても読み込んでおく必要があります。

1-2-1. 都市計画マスタープラン

都市計画の根本に置かれているのが「都市計画マスタープラン」です。そのマスタープランにおいても当エリアは商業地とされており、住宅地とはされていません。

広島市都市計画マスタープラン(2001年1月)より関係する項目を抜粋したもの
項目 当エリアの位置づけ
土地利用の方針 ■「都心及び広域拠点の中心的商業・業務地」
都市景観形成の方針 ■「歴史的資源を生かした都市景観の形成」…原爆ドーム及び平和記念公園周辺建築物等美観形成要綱などの活用による国際平和文化都市を象徴するような景観の形成
市街地などの整備・保全の方針 ■地方中核都市広島の拠点として、紙屋町から八丁堀にかけての都心の市街地や周辺の拠点地区については、回遊性とゆとりのある歩行者空間の整備などにより、中心市街地の活性化に向けて、魅力と集客力を増すなどの総合的な施策を検討します。
■「再開発促進地区」…民間による再開発を促進・支援するとともに、広島市の都市づくりに必要な高次都市機能の導入にかかる市街地の再開発や、大規模な低・未利用地の有効活用を検討します。
中区の都市整備の方針 ■「都心コア商業地」…都心の幹線街路に囲まれた商業地で、都会的な雰囲気や回遊性を備え、広域性のある小売り商業地・繁華街を形成する商業地


1-2-2. 用途地域および容積率

では、具体的にどのような都市計画が決められているかを「都市計画図」で調べてみましょう。

■当エリアは全域に渡って「商業地域」という用途地域が指定されています。(左の都市計画図で着色されている部分は全て商業地域です) 商業地域は、住環境よりも経済活動を優先させるべき地域という位置づけですので、住宅・店舗・オフィスなど自由に建てることができます。病院や学校もOKです。ただし、工場は建てることができません。
容積率は左の図に描いてある通りで、幹線道路沿いが800%、本通り沿いが600%、その他が500%です。ただし、1-1-3で書いたように、実際に使える容積率は前面道路幅員で決まります。

■当エリアは全域に渡って「駐車場整備地区」に指定されていますので、一定規模以上の建物には「建築物における駐車施設の附置等に関する条例」に基づき、駐車場設置が義務づけられます。

#10:都市計画総括図に一部トリミング等の加工を加えたもの


1-2-3. 地区計画

都市計画図(図#10)にも描かれていますが、当エリアのうち幹線道路沿いは「都心幹線道路沿道地区地区計画」、内側は「都心コア商業地区地区計画」が定められています。地区計画とは、地域の実情に合わせて「全国一律ではない地域限定の都市計画」を定められる制度です。地区計画をわざわざ定めているということは、その中身を読むことで、行政(あるいは地元住民)が当エリアをどう考えているかを知る手がかりになります。
幹線道路沿いの「都心幹線道路沿道地区地区計画」は風俗店を禁止する程度の内容ですのでここでは割愛して、「都心コア商業地区地区計画」を見てみます。

都心コア商業地区地区計画(当エリアに関係するもの)の概要
(抜粋し分かりやすく書き直したもの。引用元はこちら) 平成18年1月1日時点
「方針」
(守る義務なし。地区計画区域全域が対象。)
・大手町二丁目地区については、アストラムライン地下駅の建設や地下街計画の具体化等の都市基盤整備が進められていることから、紙屋町と一体化した商業・業務機能の集積を図る必要がある。また、世界恒久平和を願う”ヒロシマの心”のシンボルでもある原爆ドームに隣接し、かつ、元安川を挟んで平和記念公園の対岸に位置することから、厳粛で落ち着いた雰囲気を持つ景観を誘導していかなければならない。
・土地の合理的かつ健全な高度利用を図りつつ、賑わいのある都心商業コアの形成を図る。
・壁面後退により歩行者空間の形成を図る。
「地区整備計画」
(守る義務あり。地区計画区域の南半分が対象。)
・以下の(1)〜(3)を満たせなければ、容積率は400%どまりとする。
 (1)1階を住宅・倉庫・工場以外の用途とする
 (2)敷地面積が200平米以上
 (3)高さ4mまでの部分の壁面は2m後退させる
・容積が400%以上の場合は門や塀を設けてはならない。


地区計画では、「方針」と「地区整備計画」の二つを定めます。「方針」は努力目標であり守る義務はありませんが、「地区整備計画」については守る義務があります。
要するにこの地区計画では、南側の半分について「1階用途・敷地細分化の防止・壁面後退」を定めて、これを守らねば容積率は400%止まりだという規制をかけているわけです。
肝心の原爆ドーム周辺については、「方針」のみ適用ですから、何らの義務も課されていないことになります。
ですが、たとえ努力目標であっても、「商業・業務機能の集積」「落ち着いた雰囲気を持つ景観」「賑わいのある都心商業」「歩行者空間の形成」が都市計画として明記されており、また一方で
「居住機能」に関する言及がないことには注目すべきで、やはり当エリアはマンション街ではなく都心商業地を目指すのが適当であると考えられます。

一方でこの地区計画には「高さ」への言及がなく、土地の高度利用が謳われている点にも注意すべきで、敷地をまとめて容積率緩和を受けることで超高層ビルが建てられる可能性は残されています。

ちなみに、この地区計画の枠内でマンションを建てようとすると、写真#12のように壁面を後退させて容積を目一杯使うことになります。マンションだとどうしても背が高くなる(詳細は1-3を参照)ため、結局壁面線も高さもデコボコな街並みになってしまいます。

#11:地区計画の内容(広島市都市計画局計画調整課「都市計画の内容」より) #12:これは望ましい高度利用?




1-3. マンションはオフィスビルよりも背が高くなる?

ほとんどの方はご存じないと思いますが、同じ容積率でもマンションはオフィスよりも高層の建物になってしまいます。その理由を理解するには容積率について少し深く知っておく必要があります。

容積率とは、敷地の何倍の床面積まで建てられるかという制限です。例えば、敷地が500m2で容積率が600%であれば、500m2×6=3000m2の床面積までなら建てられることになります。
では、容積率が600%なら6階建てかというと、そういうわけではありません。敷地を全部使ってびっしりと建物を建てることは無理で、商業地域ですと敷地の7〜9割を建物に使う(つまり建ぺい率70〜90%)のが一般的です。仮に500m2の敷地のうち350m2を使って建物を建てるとしましょう。床面積の上限は3000m2ですから、3000m2÷350m2=8.57 つまり8階または9階建てということになります。

これで話が終われば良いのですが、実際はもっと複雑です。先程の例と同じく、容積率600%の商業地域内にある500m2の敷地を例に説明しましょう。
まず、この敷地にマンションを建てる場合。共同住宅では、バルコニー・共用廊下・共用階段・エントランスホールなどは容積率の対象外です。一方、オフィスビルを建てる場合は、ビルのほぼ全てが容積率の対象です。これを図にすると下のようになります。


上図にあるように、建ぺい率は70%とします。すると1フロアあたりの床面積は500m2×0.7=350m2です。
また、マンションでは全ての床の60%が容積率の対象になるとします。オフィスでは床の100%が容積率の対象になるとします。


以上の仮定のもとに試算してみると、マンションの場合、1フロアあたりの容積率対象は 350m2×0.6=210m2 となります。容積率は600%ですから、建てられる床面積の上限は 500m2×6=3000m2 ですから、3000m2÷210m2=14.28 より、14階となります。マンションの階高を3.2mとすると、建物高さは3.2m×14=44.8mです。
一方、オフィスビルの場合、1フロアあたりの容積率対象は 350m2×1=350m2 です。建てられる床面積の上限は3000m2で変わりませんから、3000m2÷350m2=8.57 より、8階となります。オフィスの階高を4.2mとすると、建物高さは4.2m×8=33.6mとなります。
上図の例はあくまで仮想的な例ですが、景観論争を引き起こした原爆ドーム横のマンションは「商業地域・容積率600%・14階・建物高さ45m」ですから、仮定とはいえ、そこそこ現実に近いと思います。

このようなメカニズムのため、
同じ容積率であったとしても、マンションかオフィスビルかによって、建物の高さには大きな差が付くのです。
逆に言うと、マンション街ではなく商業地やオフィス街に誘導していくことによって、容積率を変えなくても建物の高さは自然と下がってくるはずです。

【補足1】
商業ビルを想定してもう一例組み立ててみます。
商業地域で容積率600%、建ぺい率85%、敷地面積500m2、有効率100%(床面積の100%が容積率対象)とします。すると、1フロアあたりの容積率対象床面積は、500m2×0.85×1=425m2です。建てられる床面積の上限は500m2×6=3000m2で変わりませんから、3000m2÷425m2=7.05 より、7階となります。階高を4.5mと設定すると、建物高さは4.5m×7=31.5mとなります。
【補足2】
ここまでの試算や現実に建っている建物からも分かるように、容積率600%の場合、大手町エリアの敷地規模を考えると、商業・オフィスで高さ30〜35m、マンションで高さ40〜50mというのが妥当な線かと思われます。




1-4. 現状分析のまとめ

ここまでの話をまとめます。
  • 現地を歩いてみた結果、当地区は「繁華街のお勝手口」になっていることが分かった。立地は良いのに商業の賑わいが今ひとつであり、特に高級店や飲食店が少ない。原因は、車が多くて歩きにくいことや、道が狭くイメージが良くないことなど。平和公園から都心部に入っていく”玄関”づくりというだけでなく、郊外のショッピングセンターに負けない中心市街地を育成するためにも、当地区を都心商業地に誘導していくことには意味がある。
  • 都市計画において当地区は都心商業・業務地という位置づけであり、住宅地という位置づけではない。経済活動を優先し高度利用していくことが目標になっている。景観に関して強制力のある制限は2006年時点では存在しない。
  • 例え同じ容積率であったとしても、マンションかオフィス・商業かによって、建物の高さには大きな差が付く。

当エリアは、マンションやタワーパーキングの街などではなく、かといって看板が氾濫するゴミゴミした繁華街でもない、品格と高級感のある都心商業地に育てていくのが本来の姿だと思います。そうすることで、都心が活性化し、賑わいが生まれ、賃料収入がアップするので地元地権者や周辺商店街にとっても好ましい結果になります。そういう街に変わっていけば、建物の高さが下がってデザイン性も上がるので、自然に景観面でも向上することが見込めます。
この地に広島を代表する都市景観を形成していくためには、もちろん「景観法」等を適用した強制力ある景観誘導が必要だと思いますが、それだけではダメで、より本質的なところから改善していく努力が欠かせません。


「広島にとって重要なこの場所にふさわしい、品格ある商業の街づくり」を提案します。

次のページでは実現させるための方法を提言としてまとめます。
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